【シリーズ】
離婚前

〜before dawn 別れの前夜、光を探している

VOL.3
判例の外にあるもの

判例の外にあるもの
― 正しさよりも、やさしさを選べたなら ―

正しいことより、やさしいことを。

離婚専門の弁護士・黒川麻耶。
誰よりも冷静に、誰よりも効率的に、そして“正しく”生きてきた彼女は、ある夜ふいに、依頼人の涙に自分の影を見る。


赤坂、午後十一時。
判例集を閉じる指先が止まる。
「正しい答え」はあるはずなのに、心だけが救われない。
そして夫に言われた一言が、何度も胸の底で反響する。
――「君と話していると、いつも判決を受けている気がするよ」


これは裏切りの物語ではない。
沈黙と時間によって、少しずつ変質していく関係の物語だ。
麻耶は、相手を守るための言葉ではなく、自分を守るための論理を使うようになっていたことに気づく。

「正しいのに、どうして苦しいんでしょう」
依頼人・成瀬理加のその言葉は、麻耶自身の“答えの出ない痛み”を暴き出していく。


深夜のカフェ〈オルフェ〉。
静かなジャズ、温かな照明、白いカップの音。
判例の外側にある「感情の真実」に触れたとき、麻耶は初めて、勝ち負けではない場所で自分を救う方法を探し始める。


別れは終わりではなく、再定義――。
正しさに囚われた女性が、やさしさを取り戻していく。
静かで優しい、心の修復の物語。